結論
1 嫌なら署名しない(その代わり退職金に影響するかも)
2 退職金の額が少額であれば、堂々と署名拒否!
3 協業避止期間の長い・短いの基準は2年
4 平社員であれば協業避止義務なし(研究者・取締役・会社の重要な業務に関わってる人は要注意)
5 困ったときは「憲法の職業選択の自由」を主張
↓↓↓
解説(長文です)
~誓約書への署名を求められた時に知っておきたいこと~
そもそも競業避止義務とは?
労働者は、会社との間で、雇用関係という法律関係を結んでいます。
そのため、労働者は、在職中に、使用者と競業する事業を営んで、使用者の利益を著しく害するようなことをしてはならない法的な義務を負っていると考えられます。
これが「競業避止義務」です。
問題は、「退職後も」そのような義務を負い続けるのかという点です。
職業選択の自由
そもそも、憲法上、人には職業選択の自由が保障されています。
そうである以上、在職中はともかく、退職後には、競業行為を避けるべき義務は負わないのが原則といえます。
したがって、退職後に競業行為をしないことを内容とする誓約書を提出するなど、会社との間で競業避止義務について個別に合意をしていない場合は、競業避止義務違反を理由に法的責任を問われることはありません。
逆に、憲法違反ですよと会社に忠告してあげましょう。
また、仮に会社が退職金を支給しないなどの制裁措置を取ってくるのであれば、同じように不支給に理由がないことを指摘して、支払いを求めていくことになります。
競業避止義務の合意がある場合
では、会社との間で競業避止義務について合意をしたという場合は、どうなるのか。
会社との間で競業避止義務について合意をしている場合でも、無条件にその効力が認められるわけではありません。
まず、そもそも、例えば無理やり誓約書にサインをさせられたなど、合意が任意に行われたものでないのであれば、有効な合意が成立しているとは言えません。
この場合は、合意が存在しないとの同じことになります。
また、仮に合意が成立している(誓約書に自らサインした)としても、人には職業選択の自由が認められる以上、その自由が不当に制約されない限度でのみその効力は認められます。
裁判所の見解はは、
「競業の制限が合理的範囲を超え、職業選択の自由等を不当に拘束し、同人らの生存を脅かす場合にはその制限は公序良俗に反し無効となる」
少し分かりづらいかもしれませんが、競業避止義務の合意が有効となるか否かは、おおむね以下のような点を総合的に考察して判断されています。
① 使用者のみが有する特殊な知識等が害されるか
② 労働者の在職中の地位や職務内容
③ 競業禁止の期間や地域の範囲
④ 労働者のキャリア形成の経緯
⑤ 労働者の背信性
⑥ 代償措置の有無、内容
また③の競業禁止の期間については2年を基準としている判例が多いです。
誓約書へのサインを求められたら!?
では、以上で説明したことを前提に、退職時に、退職後も競業避止義務を負うことを内容とする誓約書等に署名を求められた場合の対応について考えてみましょう。
納得できない場合は、とにかく署名の拒否することです。
労働者には、退職後にも競業避止義務を負うことを内容とする誓約書に署名をする義務があるわけではありませんので、あなたが拒否をすれば、会社としてはそれ以上何もしようがありません。
また、他の選択肢としては、誓約書に署名をすることの条件として、退職金の積み増しなど一定の代償措置を求めることも考えられます。
本来自由であるはずの退職後の行為について、一定の制約を受け入れる以上、一定の代償措置を求めることは決しておかしなことではありません。
ただ、これらの方法は、どうしても会社と険悪なやりとりになる可能性が極めて高いといえます。
したがって、出来るだけ円満に終息させたいけれど、競業行為による後日のトラブルを防ぎたいということであれば、あなたが退職後に行うかもしれない行為が制約の範囲外になるよう、競業避止義務の範囲を狭める交渉を会社と行うことも考えられます。
注意事項
顧客を意図的に大量に奪ったり、従業員を大勢引き抜いたりするなどの行為は背信行為となり、不法行為として損害賠償の対象になります。このような不法行為があった場合は、就業規則等に記載、特約の締結うんぬんは関係ありません。